「…なっ」

「もう溜まっちゃってしんどいの。いい加減、手でやるのも疲れたし、ほら、どうせあの先輩とやってんだろ、だからさ、オレもお前の中に入れさせてくれないかなってこと」

「…的場…」

 何を勘違いしているのだろう。

 先輩は先輩であって、そんな関係なんて全くないというのに、どうしてそんなことを言うのだろう。

「水谷先輩とは、別に…」

「言い訳はいいって、知ってんだから、お前があの先輩とそういう仲だっていうのは。お前の部の連中はみんなそういってたし」

「…そんな…」

 たまに先輩と話していると、二人きりにされることがある。

また、よく分からない中傷も言われたが、あれはそういう意味だったのか。

「…オレは…」

「だから、もうぐたぐたいうのはいいから、さっさとやらせてよ。それとも出場停止になりたいわけ?」

「……」

 違うのに。

 確かに大会には出たい、先輩の引退試合でもあるし、次期部長の指名も受けているから、その発表をできれば都大会出場して入賞した上でしたかった。

 けれど、本当はその都大会をきっかけに渉と話がしたかったのだ。

 一所懸命シュミレーションしたのだ、見に来てくれというシーンを。

 都大会は大きな大会だから、他のクラスメートにも来てくれというついでのように、いえたらいいなと。

 邪なと思ったけれど、そうでもしなければ渉と話なんてできそうにない悠はその瞬間にかけていたのだ。

 そして、それをきっかけに渉と挨拶を交わすくらいの関係にはなりたかった。

 なのに、どうして。

「分かった」

 もういい。

 きっと本当の理由を言えば渉は軽蔑するだろう。

 ならば本当の気持ちなんて隠してしまえばいい。

「好きにすればいい」

「そう」

 渉は悠がまだ抵抗すると思っていたのか、あっさりとした反応に鼻白んだようだが、やがてくっと嘲笑するように肩をすくめた。それからゆっくりと体重をかけて悠にのしかかった。

「ま、どっちでもいいや。オレは相手が誰でもいいんだし。男なら連れ込んでも写真誌に撮られることもないからな。まあ、せいぜい頑張ってよ」

「もう、いいだろ、さっさとやれよ」

 まだ何か言うつもりだったらしい渉は悠の制止に驚いたようだが、やがてため息ひとつこぼして、悠の肌を蹂躙し始めた。

 初めて知った渉の体温は少し低く、手のひらはいつまでも乾いていた。

 ただ、中に入られたときはその熱さと痛みに堪えても涙が止まらなかった。

 うつ伏せにされて、腰を高く上げさせられ、中を指で探られる。気持ちのない相手に蹂躙されるのが辛くて、もういいとその指を拒むと、渉は分かったと言って、悠の体に突き入れてきた。

 激痛と空しさ。悲しくて仕方がなくて、うつ伏せにされていてよかったと思った。

 きっと今のこの顔は悲しみに満ちている。

 涙がとまらなくて、しゃくりあげそうになって、必死で枕を噛んだ。

 渉はその悠に卑猥な言葉を投げかけて、心まで犯そうとした。

 女の子ではないし、気持ちが通じ合うなんて、思いもしていなかったけれど、もしもという想像したことは何度もあった。

 経験もないから、セックスなんて想像したことなんてなかったけれど、キスくらいなら想像した。

 けれど、渉と交わしたキスは悠の口を使って射精した、渉の精液の味がして、終わった後には渉から気持ち悪いという言葉をもらった。

 最悪の経験。

 中途半端にしか慣らされなかった体は悲鳴をあげて血を流していた。

 コトが終わった後、渉はシャワーを浴びていけといったけれど、断った。

 そして、ふらふらとする体を引きずって帰ろうとする悠に渉は薄ら笑いを浮かべて言った。

「あのさ、オレ、お前のこと、気に入ったよ。またやらせろよな」

「…なっ」

 驚いて振り向いた悠に渉はベッドの上で転がって笑いながらいった。

「いやだって言っても無駄だからな。いやなんていったら、さっきの写メ、協会に送るし、こいつは学校の掲示板かな」

 渉の手にはデジカメが握られていた。

「…それは」

 もしやと怯えた悠に渉はグラビアで見るような完璧な笑顔を向けた。

「さっき、お前が気を失ったときに撮ったんだよ。精液まみれでぐちゃぐちゃになってるお前の姿をさ。こいつ、学校の掲示板に張られたらお前、退学だよな。大好きな先輩との後少しの学校生活、ぱーだ」

「…的場…」

「だから」

 渉はごろごろと転がっていたのをやめて、射抜くような目で悠を見た。

「オレが呼び出したら即効来い。それから先輩とは別れろ。いいな」

「…ッ…」

 どうしてこんな理不尽なことばかりなんだろう。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 もう少しだけ夢が見たかった。

 そんな些細な夢さえ見てはいけなかったのか。

「…分かった」

 悠は小さく言うと、カバンを持って外に出た。

 それから真っ直ぐ家へと向かった。

 無理矢理開かれた下肢は痛くて、中に直接吐き出された渉の残滓が気持ち悪い。

 最初、あのコンビニで買ったコンドームを渉は使おうとしたけれど、なぜかうまくいかなかったらしく、面倒だとそのまま入ってきたのだ。

 そのときのはき捨てるような言葉が悠をまた痛めつけていた。

 ただ好きなだけなのに、うまくいかない。

 どうして、こうなったのだろう。

「悠、御飯は?」

 なんとか家に帰り着くと、母親がそう声をかけてきたのに、いらないと答えて風呂に飛び込んだ。

 全身が気持ち悪い。

 頭からシャワーを浴びて、その暖かさにほっとしていると、同時に泣けてきた。

「…う…」

 今なら声をあげても誰にも気づかれないだろう。

 そう思って悠は泣いた。

 下肢から渉が注いだものが流れ出し、それが排水溝へと入っていく。その残滓に血が混じっているのに、切なくなった。

 好きなだけで、思うだけでよかった。

 挨拶を普通に交わしたかった。

 つりあいがとれないのも、悠と渉ではつるむものも他に付き合っている連中とは違いすぎていて無理なことも分かっているから、交流なんて取れないのも知っているけれど、そう願っていた。

 それももう願えない。

「…どうして…っ」

 引き絞るように漏れた声はシャワーによってかき消された。











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2008.12.6

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