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 渉に何度言われてもうまくできなかったのに、今は自然と唇を開くこともできる。

 甘いキスに酔いながら、悠は下半身に違和感を感じた。

「…あ」

 反応している。

 それこそ痛いくらいに弄られても反応しなかった悠のものが張り詰めて、快楽を主張していた。

「…お前」

 悠の変化は渉にも分かったらしい。

 どこか嬉しそうな顔をして。渉は悠のそれを服の上から手で確かめた。

「…感じてくれてる」

「…的場、触るな…」

 触られるとますます硬くなってしまう。

 制服の中で痛いくらいに張り詰めてくるのに、悠は懇願するように渉に言った。

 だが、その悠に渉は首を振る。

「だめだ。今日こそ、気持ちよくなってもらうから。…ベッド、行こう?」

「でも…」

「ここじゃ、背中を痛めるし。…嫌な思い出だけなの、いやなんだよ、あそこが」

「……」

 躊躇した悠にそう言った渉。拒むこともできなくて、悠は渉に従った。

 微妙に前かがみになってしまうのに、悠が情けなく思っていると、渉は嬉しいと笑いながら言った。

「どんなにしたって反応してくれなかったのに、今はそうやって反応してくれてるのがすごく嬉しい。なんかお前、可愛い」

「……」

 こんな格好しているのを可愛いといわれて、恥ずかしくて仕方がなかったけれど、渉の自然体の笑顔が嬉しくて悠は怒ることができなかった。

 寝室に入ると、悠は渉に抱きしめられ、そのままベッドに寝かされた。

 覆いかぶさってきた渉は余裕の全くない激しいキスを悠にして、悠の体を追い込んでいく。

「…羽住」

 性急に服を脱がされ、何も隠せない状態にされた。その悠を見る渉の欲望の漲った目が怖くて、恥ずかしかったけれど、だが、その目が悠を求めているためだと思えば嬉しかった。

「やっぱり反応してくれてる」

 渉は嬉しそうに言いながら、悠の首筋に顔をうずめ、そこにキスを落とした。

 少しの痛みが走る。後を残しているのだと思った。

「…まと、ば…」

「もうひどいことはしないから、そのまま気持ちよくなって。声、聞かせて」

「…あ…」

 胸の小さな飾りに舌が絡む。舌が立てる水音がたまらなく卑猥でどうしたらいいのか分からない。

 思えば、まともな愛撫なんて受けたことがなかった。いつも性急に体を開かされ、突き入れられる。

 それで十分な関係だった。

「本当はいつもこうやって可愛がってやりたかったけど、それ、できない立場だっただろ、オレ。だから、無茶ばっかりしてさ。…今日は思い切り可愛がれる」

 渉はそういうと、悠が自分から体を開かなければならないほど、快楽で追い詰め始めた。

「…ん、ああ、…ふぅ」

 自分でも信じられない甘い、鼻にかかった声。

 腰が自然と浮いてくる。

 渉も全裸になっていて、彼の熱さも悠を追い立てていた。

「感じてる羽住って、こんな可愛かったんだ」

「…あ、…や…」

 渉の手が悠のものに触れる。

 あの指の長い綺麗な手が自分に触れていると思うと、泣きたくなった。

「そう、足開いて、もっと触らせて」

「…まと、ば」

「可愛いな、羽住は」

「ん…く…」

 ひくんと身をこわばらせて、悠はシーツを掴もうとした。

 だが、その手を渉に止められる。

「掴むんならオレにして。抱きついて、後つけてもいいから」

「…でも…」

「お前がオレのになったって証拠、ちょうだい」

 躊躇う悠に渉は切なげに言って、自分の背に悠の腕を回させた。

 悠は渉の言葉に従って、渉の背中に回した腕に力をこめた。

「そう、それでいい」

 渉はその悠に満足げにいって、悠を解放させるために指を激しく動かした。

「あ、ああっ」

「本当は舐めてあげたいけど、今日はイク顔を見たいから、このまま、ね、イってみせて」

「…的場…」

 同性だけにそこへの愛撫は的確だ。簡単に追い詰められて、悠は激しく喘いだ。

「…あ、もう、…う、くぅ」

「そう、可愛い…」

「ああっ」

 きゅっと先を指で擦られた途端、悠は簡単に放ってしまった。

 ひくんと体が弛緩する。指先までしびれるほどの快楽に、悠は渉を見た。

「すげー、可愛かった。気持ちよかったみたいだな」

「…的場…」

「今度は一緒に気持ちよくなろ?」

 渉はそういうと、自分の手に飛んだ悠の残滓を指にこすりつけ、渉の後ろへと回した。

「…的場」

「大丈夫、怖くない」

 いつも、無理矢理開かされていたため、傷つくことも少なくなかった。

 その痛みを思い出して怯える悠に渉はそういうと、悠の足を大きく広げて、右足を肩に乗せた。

「お前の可愛いとこ、丸見え」

「…っ…」

 恥辱で真っ赤になった悠に渉は穏やかに微笑んで、指を固く閉ざされた悠のそこへと這わせた。

「あ…」

 ゆるゆると指が這い回る。

 悠が渉を受け入れようとするまで待つつもりなのだろうか。

 悠は何度も深呼吸を繰り返し、渉を受け入れたいと思った。

「…う…」

 一瞬ほどけた瞬間に渉の指が入った。

 悠の残滓が水音を立てて、渉の指が中に入るのを手助けしている。

「…う、あ…」

「そう、ゆっくり力抜いて」

 渉は今日はひどく慎重で、時間を厭わなかった。

 渉の指が3本、悠の中に入る頃にはそこからは快楽しか生まれてこなかった。

「…ん、はあ、…っく」

「すげー、いい感じ。可愛いね、羽住、そんなに感じて」

 前もまた硬くなっているのが分かる。

 触られないまま硬くなってしまった自分が恥ずかしい。

「そろそろ、オレも気持ちよくなっていいかな」

 もう、渉も限界だったのだろう。

 上ずった声がそういうのに、悠は腕を伸ばした。

「…ああ、来いよ…」

「…うん」

 渉はこくんと頷くと、悠の足を肩から下ろし、代わりに大きく足を広げさせると、自分の体を密着させた。

「本当は後ろからのがいいんだけど、ちゃんと抱き合いたいし、ずっと我慢してたし」

「え?」

 どういう意味だろうと首を傾げると、渉は恥ずかしそうに言った。

「だからさ、オレ、お前を後ろからしかしなかったじゃん。前からしたらばればれなんだよ。気持ちが」

「…それは」

「見せてやるよ、そのばればれなとこ」

「え、…あ」

 悠の後ろに熱いものが押し当てられた。

 体を一瞬こわばらせ、それから力を抜こうと、深呼吸をした瞬間、渉の熱が中に入ってきた。

「…あ、…う、っくぅ…」

 やはりどんなに慣らされても、最初の衝撃だけはどうにもならない。

 一瞬痛みと衝撃に目を閉じたが、渉の熱が体の奥底にまで入り込んだのを感じて、ゆっくりと目を開いた。

「…あ」

 そこにあったのは渉の欲望の滲んだ、けれど悠を思う愛しさと嬉しさに溢れた顔だった。

「な、分かりやすいだろ」

 渉は息を少しあげながら、驚く悠にそう言って笑った。

「脅迫してる側がこんな顔晒してたら格好つかないじゃん。お前抱けて嬉しいって顔なんかさ。相手が嫌がってんのに、やっぱ好きなやつとできるのは嬉しいからさ。…だから、後ろからしかできなかったんだよ」

「…まと、ば」

「かっこ悪い?こんなオレ」

「いや」

 ――――かっこいいよ。

 悠の最後の呟きは渉の耳へと直接注がれた。

「ありがと」

 渉はその言葉に嬉しそうに言うと、ゆっくり動き始めた。

「あ、ああっ」

 体の奥まで突き入れられる感触。おおきく開かされ、掲げられた足が渉の律動に合わせて揺れているのが少しおかしい。

 腹の底が熱い。たまらなくて、声は苦痛だけじゃなく、快楽でもあがった。

「あ、も、…うっく…」

 喉の奥でしゃくりあげる。

 たまらない。耐えられない。

 悠は渉に抱きついてその体を引き寄せた。

「好き」

 そして、そう呟いた。

「…好き、的場が好き、…好き、だ…、んあっ」

 悠の中で渉がますます大きくなる。

 悠の言葉に渉が反応したのだろうか。

「お前ね…」

 そのとおりだったらしい。

 切羽詰った声で渉は恨みがましげに言った。

「今そんなことを言ったら、イっちまうだろ。…もう少し、味わわせろよ、お前の中」

「…あ、ああっ」

 先ほど指で弄られたときに反応を返したところを強くこすられた。

 ひくんと震えて、悠は渉の背に爪を立てた。

「ま、また、イク…、的場…」

「イケばいいよ、オレだって、もう、限界…っ」

 足をさらに広げられ、奥いっぱいまで突き入れられた瞬間、そこに渉が注がれた。その感触とほぼ同時に悠も放っていた。

「…あ、…ん」

 腹の奥底から満たされる感触がする。

 渉は悠の中に注ぎ終えると、そっと出ていった。

「…大丈夫か?」

 けれど、悠を抱きしめる腕は解かない。

 しっかりと抱きしめられて、悠は目を閉じた。

「ああ、大丈夫」

 思い切り開かされたせいで足の股関節は鈍く痛んでいるけれど、それもじきに治るだろう。

 激しく抱かれたというのに、丁寧にほぐされたせいか受け入れた場所の痛みも少ない。

「ごめんな、歯止め、きかなくて」

「謝るな、同じだから」

「…羽住」

 悠の言葉に渉は一瞬驚いて、それからハハハと声を立てて笑った。

「本当、かなわないな、お前には」

「的場?」

「また惚れたってこと」

 渉はぎゅっと悠を抱きしめると、その耳にそっと囁いた。

「剣道部、辞めるなよ」

「…しかし」

 水谷にはもう言ってしまった。

 確かに戻ると言えば水谷は迎えてくれるだろうけれど、どこか気が引けた。

 悠が躊躇するのに、渉は首を振って微笑んだ。

「大丈夫、また戻れるから。うちの剣道部がお前抜きで、都大会、勝ち進めるとは思えないからな」

「…的場」

「な、大丈夫だから、戻れ」

「…ああ」

 こくんと頷いて、悠は渉の胸に擦り寄った。

「それで、その…」

 渉は確認するように、言いづらそうに悠に言った。

「あの、剣道部の水谷って先輩とは本当に何もないんだよな」

「…お前」

 まだ信用してくれていなかったのか。

 思わず悲しくなった悠に渉は首を振った。

「あ、その、信用してないんじゃなくて、その…」

 言いづらそうにしていた渉だが、思い切ったように言った。

「…嫉妬だよ、嫉妬!お前、あの先輩にはすごい懐いてるし、色々相談乗ってもらってたみたいだし…、だから、オレはあの人の立場になりたかったから…」

「…的場」

 もしかしたら、蓋を開けるとこの男は随分な甘ったれのやきもち焼きなのではないだろうか。

 悠はおかしくなって、数時間前まで、この男がどんな顔で自分を脅していたのか、忘れてしまいそうだと思った。

「分かった」

 悠はくすくす笑いながら、目の前で真っ赤な顔をしている渉にキスをした。

「いいことを教えてやる。先輩にはもう長く付き合っている彼女がいて、その彼女とはこのまま結婚するって、本人も周りも思っていて、男なんか目に入ってないんだよ、先輩には。それにオレだって、先輩を先輩以上に見たことはない」

「…羽住」

 それでも不安そうな渉に、自分の方こそと思いつつ、悠は言わなかった。

 これから先、渉の前には綺麗な女も男も現れる。悠以上の努力家も現れるだろう。数えれば不安なんてきりがない。

 それでもいいと思った。脅迫までして、手に入れようとしてくれた渉を信じたいと思ったのだ。

「今度の試合、応援にきてくれるか、的場」

 そうだ、これが言いたくて頑張ってきたのだから。

「応援、きてほしいんだ、的場に」

「……」

 悠の強請る甘えた言葉に渉の顔がゆっくりと笑顔にほどけてくる。

 やがて、グラビアでもテレビでも見たことのない、渉の自然体の笑顔が現れ、ゆっくりと頷き返されたのを悠はどこか奇跡でも見ているように見つめていた。











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2009.5.11

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