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 今日は朝からよく晴れていた。

 悠の部は予選を勝ち進み、無事に都大会への出場権を勝ち取ると、そのまま破竹の勢いで都大会決勝まで勝ち進んだ。

 あの日の翌日、悠は水谷に頭を下げ、部への復帰を願い出た。

 水谷は心配させた罰だと悠の頭に拳骨を食らわせたが、後はただただ喜んでくれた。

 思ったとおり、水谷は自分のところで悠の退部願いをとどめておいてくれ、悠は何事もなかったかのように部に復帰することができた。

 変わったことなんて少しもない。

 あるとするならば、悠と渉の関係だけ。

 渉はゆっくりと不自然に思われない程度に悠との間合いをつめ、学校でも自然と二人でいられるようにした。

 仲が悪いとやはり思われていたらしく、当初は驚いた顔をされたが、それも二人がそうだったかと首を傾げれば、周りの誤解だったようだで片付いた。

 本当は皆が気づく以前から随分距離は縮まっていたけれど。

 そして、悠の手元には悠自身が契約した新しい携帯と、悠が欲しいと強請ってもらった渉の部屋の鍵があった。

 今度は悠からも連絡を取る。鍵だって、渉が呼ばなくても部屋に入るのに使っている。

 最初から、丸きり白紙でというのは無理だけれど、ゆっくりとしたペースで二人の関係を新しくしていこうとしていた。

 悠の携帯にも渉の携帯にも確かに脅しのねたになりそうなとんでもない写真がたくさん入ってはいるけれど。

 けれど、それをそんなことに使いたいとは思わない。抱き合っている姿やお互いの寝乱れた姿もただ愛しくて、とどめておきたくてとったものだから。とはいえ、友人の誰にも見せられはしないけれど。元々見せる気もないからいいのだろう。

 悠はそこまで考えて、ようやく目を開いた。

 今、悠は決勝の場に大将として立っていた。

 流石に決勝戦となれば強豪が出てくる。試合はもつれ込んで、悠の大将戦で全てが決まってしまうことになった。

「悠」

 水谷が声をかけてくれるのに、悠はこくんと頷いた。

 勝っても負けても悔いはない。

 部の連中も今では悠を認めてくれている。

 悠の朝練に参加しないものはもういない。

 最後まで出てこようとしなかったものも結局出てきてくれた。

「確かにあれだけ練習してれば強くなるよ」

 そういって、悠の努力を認めてもくれた。

 努力していれば報われる。願っていれば叶うのだ。

 悠はゆっくりと立ち上がり、相手を見据えようとして、その相手の後ろ側、二階の観覧席に渉の姿を見つけた。

「…的場…」

 思わず呟くと、渉は走ってきたのか、必死で息を整えて、やがて悠に深々と頷いてくれた。

 今日は見ていてもらえる。

 渉の前で戦える。

 願ったことがやっぱり叶った。

 努力して、頑張って、そしてやっぱり手に入った。

 悠は竹刀を握る手に力をこめた。

 部のためにも、仕事が終わってかけつけてくれた渉のためにも負けられない。

 渉の努力も今、報われようとしている。ショートフィルムだけれど、その世界では有名な監督の目に留まり、今度主役として映画に出ることになったのだ。俳優になりたいと頑張っていた渉の頑張りが認められたのだ。事務所も、渉のためにモデル部門だけでなく、俳優部門も作ろうとしてくれている。何もかもが報われようとしていた。

「……」

 悠はもう一度渉を見た。

 頑張れと、その目が言ってくれている気がする。

 悠はその目に力を得たように、試合相手を睨みつけた。

 悠の気迫に一瞬相手が怯んだように見えた。

 ならば、この勝負は悠に勝ちが見えた。

「…はじめっ!」

 鋭い号令とともに、悠は竹刀を振り上げた。

 ――――最初。

 始まりはあの朝の光の中だった。

「なんか、すげー綺麗だな。努力してる人ってのは綺麗なんだ」

 道場に顔を出した、突然の訪問者は悠の心に一筋の光をくれた。

 努力しても認めてもらえない寂しさにくじけそうになった悠を支える言葉をくれた。

 それから、もう一年以上の時間が経つ。

 けれどその間もその言葉は悠の心を支えてくれていた。

 悠に立ち続ける力をくれた。

 それから、少しだけ辛い時間を経て、今彼は悠の隣にいる。

「面あり一本!」

 有効の白旗は悠のもの。

 悠はその手にようやく望んだものを手に入れたのだ。











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2009.5.16

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