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「……」

 悠の言葉に渉はまるでせかされるように腕を伸ばし、悠を抱きしめた。

 強く抱きしめられると体が痛い。

 それでもそれは不快な痛みではなくて、悠は渉の腕に自分の身を預けた。

「オレも好き、羽住が好き、すげー好き。大好きだ」

「的場」

「綺麗でかっこよくて可愛くて、お前みたいなすごいやつ、知らない。…ひどいことしてごめん、泣かせてごめん、だけど好きなんだ、ごめん」

「……」

 謝りながら好きだというものも少ないだろう。

 そんな渉がなぜか愛しく思えて、悠は渉を抱き返した。

「……」

 小さく震えて、それから悠の腕の中でため息を零した渉。安心したようなそのため息に悠は渉の体温を感じようと目を閉じた。

「…羽住」

 その悠に渉からキスが贈られる。

 頬や額、鼻や目、いたるところにキスをされて、どこか眠気すら感じた。

「…羽住」

「…あ、…ん」

 名を呼ばれ、唇にキスをされた。さっきと同じ、精液の味のしない優しいキスだ。

「…へへ、なんか緊張する。もっとすごいこと、してたはずなのにな」

 渉が照れくさそうにいうのに、目を開けると、そこには真っ赤な顔をしていた渉がいた。

「確かにな、お前、オレに無茶させてくれてたのに」

「言うなよ」

 想いを告げあったから、どこか笑い話にも聞こえる。

 悠は赤い顔の渉にこれだけはと思って、言った。

「あの、できればオレだけにしてほしい。もう、あんなことをするの」

「え?」

 驚く渉に悠は必死で言った。

「…だから、抱くのも、キスするのも、…ひどいこと、したいなら、してもいい。だから、もうオレだけにしてくれないか」

「……」

 悠の言葉に渉はどこか悲しい顔をして、頷いた。

「…分かってる。そうしたいから、オレも。羽住だけ、羽住だけでいい」

「…そうか」

 でも、あのベッドの髪の持ち主がどうなのだろう。

 一瞬聞いてもいいだろうかと思った悠に渉が先に言った。

「今日だって、勝手に押しかけてきた女がいて、しようって言われたけど、全然その気になれなかったし。…結局、オレはお前が傷ついてくれないかなって、そう思って、あんなことしてたんだから」

「…的場」

「オレが女としてるとこ見て、お前がいやな顔をするのをさ、オレのことが好きだから、あんな顔をするんだって思いたくてやってたんだ」

「……」

 じゃあ、さっきの髪は。

 ならば、本当に、そうなんだ。

「…本当にオレが好きなんだ…」

「…羽住?」

「…嬉しい…」

 じわじわとした実感がわいてくる。

 たまらない感覚。

 胸にじんわりとこみ上げたものに、悠の体から力が抜けた。

「…羽住…」

 渉の手が悠の髪を撫でる。やがて渉の唇が悠の唇を柔らかく塞いだ。











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2009.5.2

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