13
「……っ…」
やはり、そこには悠が見たくないものがあった。
「あん、何、あの子、ちょっと、渉」
「いいじゃん、おもちゃだよ」
「渉?」
女と渉が裸で抱き合っていたのだ。
悠はこういう時ほど声が出ないのだなと思った。
ショックで身が竦む。
分かっていたはずなのに、渉は悠を仕方なく抱いているのだと。
だが、さすがに現実に見せつけられるのとは違う。
「…オレ」
思わず帰ろうとした。
だが、その悠を渉が止めた。
「羽住、帰るなよ、最後まで見ていけ!」
「…え」
「帰ったらばらまくからな」
「……」
悠は渉の言葉に何も言えずに立ち尽くした。
その悠の呆然とした姿に渉はにやっと笑うと、女相手にゆっくりと律動を始めた。
「…すげー、イイ。最高。綺麗だよ、可愛い」
甘い睦言。
悠には決して言わない、渉の甘い囁きをこんなふうに聞かされるなんて。
その囁きを聞きたくなくて、耳を塞ごうとすれば、渉の鋭い視線に止められる。
結局、悠は渉が女の中で果てるまで見続けることになった。
「…じゃあ、わたし、帰るね」
「え、帰るの?」
終わった後、女性は悠を軽く押して起きあがると、ベッドから降りながら洋服を拾い集めた。
「明日仕事なのよ。帰るわ」
「そっか。また来てよ」
「そうね」
女性は軽く笑うと、渉の頬にキスを落とした。
そして、彼女は悠の隣すり抜けるとき、そっと囁いた。
「あの男は怖いわよ、気をつけて」
「え?」
驚く悠に彼女はふっと笑って、渉に言った。
「シャワー借りるわね。そのまま帰るから、お構いなく」
「はいはーい」
渉はベッドに転がって、愛想よく手を振った。
いつか見たグラビアのようだ。
あの写真の中で渉はベッドに横たわり、微笑んでいた。無邪気な笑顔が好きで、悠はあの写真の載った雑誌を大事に持っていた。
「羽住」
ぱたんとドアが閉められた途端、渉の笑顔は消えた。
代りに現れたのはひどく剣呑とした視線。
「お前さ、本当にオレのいうこと聞けないんだな」
「…何がだ?」
「……」
渉は悠の疑問に視線をきつくしていたけれど、やがてふっと笑った。
「まあ、いいや、もう。おい、こっちこいよ」
「……」
渉の言葉に悠は疑問をまだ持っていたが、逆らうこともできずにふらふらと渉に近づいた。
「これ、舐めて、綺麗にして。彼女、ピル飲んでるから中出しOKなのはいいんだけどさ、その分べたべたになるわけよ。だから、綺麗にしろ」
「……」
どこまで踏みにじられるのだろう。
いい加減、好きだという思いが擦れて消えていきそうだ。
躊躇う悠の腕を無理矢理引っ張ると、渉は悠の口を手でこじ開けると、中に自分を突き入れた。
「…う、ぐぅ…」
女の匂いがする。
渉の匂いだけなら我慢できた。けれど、女性の香水と、彼女が残した残滓の味と匂いに悠は吐き気がこみ上げてしょうがなかった。
「ほら、綺麗にしろよな。裏も舐めて。教えただろ、ほら、羽住」
「…う、ううっ」
涙がわいてきた。
けれど、渉は許してくれない。
悲しくて、涙がわいたけれど、悠は必死で渉のものを清めた。
いっそ、本当におもちゃになってしまいたかった。
「ははは、本当、お前ってすごいよな、そんなにこいつ、送られたくないってわけかよ。ご立派なことだ」
「…ん、んっ」
口の中で渉が大きくなってくる。
先走りが口の中に滲んでくるのに、いっそその方がいいと、必死で吸い上げた。女の名残があるよりも渉を感じたかった。
「ほら、ちゃんと飲めよ」
「…うっ」
口の中に放たれた。
一度零して激しく叱責された悠は必死でそれを飲み込んだ。
その悠に渉は笑って唇を寄せた。
「本当、お前って面白くねぇよな。よくやるよ。大会が大事、剣道が大事、そんなもののためにこんなことまでしてよ。…本当、…どうしようもない…」
渉に唇を寄せられ、避けることもできずに悠はそれを受けた。
精液の味のするキス。
それが自分には似合いなのだろうか。
悠はどうしようもないと、本当にその通りだと自嘲しながら、目を閉じた。
すり減っていく気持ち、それでもまだ悠は渉が好きだった。
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2009.2.28
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