『なんで新ちゃんは僕が嫌いなの?』
『りょおちゃんのおめめ、嫌いなの』
『…僕は新ちゃん、好きなのに…』
『…ごめんね、りょおちゃん、僕、りょおちゃんのこと、好きになりたい…』
『僕も好きになってほしい』
 あの事件は子供同士の他愛ない願い事だったのだ。
 当時の新一は亮介が嫌いだった。
 初めて見た時から嫌いだった。
 今考えれば、あの嫌い、は怖いに転換される。
 当時から近眼だった亮介は人を凝視する癖があって、何もしていないのに、睨み付けられている新一は亮介が怖くて、『嫌い』と言っていたのだ。
 ところが亮介の方は新一が気に入っていた。何しろ新一が『嫌い』になるくらい見ていたのだから。
 そして、二人は行動に出た。
「好きになりたいから、くじらの石か…」
「まあな…」
 二人はずぶぬれになった格好で寮に帰ってくると、寮監に明日掃除をするからと、風呂掃除を買って出て、風呂を開けてもらった。まだ、湯は抜いていなかったということで、少し温いが充分入れるし、シャワーも使えるようにしてあると、言ってもらえた。
 そして、二人は今並んで風呂に入っていた。
「なんかおかしいよなー、本当は逆に俺がおまえを池に引っ張っていったっていうんだから」
 真相はこうだった。
 どこからか、本校校舎の池の伝説を聞いてきた新一が亮介にくじらの石を手に入れようと持ちかけた。石を手に入れれば新一も亮介を好きになれると信じて。
 そして、二人は保母の目を盗んで池に向かったのだ。
 だが、幼児には池の水は深く、石を探しているうちに今日のように新一は池底の泥に足を取られ、転倒、その時に底にあった石で背中を強かに打ち付けたというのが真相だった。
「俺が悪くて起こった事故だっていうのにさ、おまえ、言い訳しようと思わなかったわけ?」
 新一はそれが一番不思議だった。自分だったら必死で弁解するだろう。どうしてこうなったのか、その説明をするに違いない。
「…それは…」
 亮介はなぜか赤い顔をしてそっぽを向きながら応えた。
「俺がおまえに好かれたいって思わなければ起こらなかったことだし、後は…おまえも知ってるみたいに、俺、口べただし…」
「……」
 自己嫌悪に苛まれ、その上、口は立たなくて。
 もしかしなくても、あの事故の一番の被害者は亮介なのかも知れない。
「それから」
 まだ続きがあったらしい。新一が首を傾げると、亮介はぽつんといった。
「おまえ、見舞いに行った俺に大嫌いって泣いたから、もうどうでもよくなってしまって…」
「…そんなこと、言ったのか」
「言った」
 驚く新一に亮介は拗ねた口調で言った。
「俺、入園した時からおまえが気になってたんだ。友達になりたいなあって。おまえ、元気で可愛くて、いいなあって思ってた。けど、おまえは嫌いっていうし、関係のないやつばっかり好きって言ってきて、たまんなかった。見てるだけで我慢って思ったけど、おまえはそのうち、見てるだけでも逃げ出して…」
「……」
 確かにこの目でじっと見られていたら、幼い子供は逃げ出すだろう。
 近眼のせい、とはいえ、ゆるぎなく他人を凝視する眼差し。他は気怠そうなのに、目だけは強い光を持っている。
 怖いと思った自分を新一は理解できた。
「それで好きになってほしいっておまえに頼みに言ったんだよ。そしたら、おまえも俺を好きになりたいって、けど今は嫌いって。…それからしばらくしてくじらの石のこと、言ってきたんだ」
「…そっか」
 今、そのくじらの石は脱衣所の籠の中にいれてある。あの石に幼い新一は亮介を好きになれますようにと願掛けしたかったのだろう。
「悪いことしたな」
「…いや」
 濡れた手で、頭を撫でてやると、嫌がるどころか亮介は嬉しげな顔をして、恥ずかしそうに俯いた。
 数々の浮き名を流しているわりに、亮介は純粋だ。あの好きになるなという言葉の意味も新一には悟れた。
「おまえ、俺に好きになろうとするなって言い続けたの、また俺があんな無茶をするかもしれないから、それがいやで、嫌いなままでいてもらおうって思ったんだろ」
「…ああ…」
 こくんと頷く。その仕草にたまらなくなってくる。
「おまえ、いいなあ。やっぱ、嫌いっての、撤回したいかも」
「そ、それはだめだ!」
 新一に好かれたくて、幼等部の頃にはあんな危険なことに付き合って、その上汚名をきたままにしておいたくせに今言えばこんなことを言う。
 その亮介に新一は眉間に皺を寄せた。
「それ、どうしてだよ」
「…おまえ、分かってないから」
「何を」
「…だから、その…」
 亮介はぼそぼそと口の中で何かいっていたかと思うと、なぜか順に名前を言い出した。
「鈴木、柏原、前田、島田、水間、北村、大森、檜垣…」
 一体何の名簿だと新一は思っていたが、途中でその名前の意味に気付いた。
「おまえ、それ…」
「うん、俺が寝たやつの名前」
「…っ…」
 やっぱりかと、なぜか怒りで顔が熱くなるのを感じて、新一は亮介を睨み付けた。
「…あのな、そんなの聞かされても…」
「鈴木は目、柏原はたしかしゃべり方、前田は手の形、島田は声…」
 聞きたくないと思った新一の前で、なぜか朗々と亮介は言うと、やがてあきらめた顔をして笑った。
「あいつら、おまえに似てたから、寝たんだ」
「…へ?」
 亮介は赤い顔のまま、新一をじっと見つめた。
「俺がさ、なんで幼等部の時、おまえがくじらの石、取りに行くのに付き合ったかわかるか?…俺もおまえに好きになってほしかったから。おまえが俺を好きになりたいって言ったのが嬉しかったからだ。俺はずっとおまえが好きだったから。…今おもうと、あれ、俺の初恋…」
「…はあ」
 確かにチビの頃は女の子に間違えられたくらいだったから、可愛かったかもしれない。
 けれど、それがどうして今関係あるのだろう。
「…えっと、あの、それで?」
「…言うと、おまえ、困るから。…今、これだけ言って分からないんだったら、いいし…」
 亮介の顔が真っ赤になって、目をよそに泳がせ始めたのに、新一は思い当たる感情にもしやと口を開いた。
「あのさ、それって…」
 新一が思ったこと。
 今まで説明されたことがもし、新一の考えと外れていたら、少し恥ずかしいけれど、間違いないような気がした。
「…おまえがその、寝た連中が俺に似てたってことってさ、もしかして、幼等部の頃の初恋、続行中ってことか?」
「……」
 亮介の顔が一層赤くなったのを見て、新一は逆に顔の火照りが消えていく。元々新一が顔を赤くしていたのは怒ってのことだから、怒りの原因がなくなれば、顔を赤くすることもない。
「えーっと、俺と寮の部屋、一緒でいいっていったの、そのほうがもめないから、じゃなくて、そのほうが嬉しかったからってことか?」
「…前日眠れなかったのも、嬉しかったからだ…。一晩一緒にいられて、思わず嬉しくてずっとついて回ってたりもした…」
 新一の言葉を自分で継いで、亮介は真っ赤になって湯に顔を鼻先までつけた。
 その亮介に新一は思わず微笑した。
 この学院内で知らないものはいないというほど、もてる男がこんなことで照れているなんて。
 しかもあの鋭い眼光が消えうせて、その目はどこか不安そうに新一を見上げている。
「…おまえ、そんなんで俺と一緒の風呂ってきつくないか?」
「…きつい、けど…」
 我慢しているんだと言外にいう男に新一はそっと手を伸ばした。
「俺のこと、触りたい?」
「…触りたい」
「…えっと、その寝た奴らにしたことを同じこと、俺にしたいわけ?」
 新一の言葉に亮介は風呂から顔をしゃんと顔を上げると、新一を睨むように見た。
「…もっとすごいこととか、気持ちいいこととかしたい。おまえが気持ちよくなるようなこと、いっぱいしたい。めろめろにしてしまいたいんだ」
「……」
 亮介の言葉に新一は息を飲む。そして、その眼差しに思わず思い出して吹き出した。
「…し、新一?」
 亮介にしたら一世一代の告白だったのかもしれない。それを噴き出されたのだ、どこか拍子抜けした情けない顔で亮介は新一の顔をのぞき見た。
 その亮介に新一はくすくすと笑いながら、ごめんと謝った。
「だってさ、おまえのさっきの目で思い出したんだよ。俺がおまえを嫌いっていって怖がったの、当たり前だ。おまえ、子供だっていうのに、さっきの目で俺のこと、見てたんだよ。もう、欲望滲みまくりの目。そりゃあ、怖いよ、嫌いだっていうさ」
 純粋な好意なら怖くない。けれど、それを超えた欲望の孕んだ感情なんて、子供は感じたことがない。身の危険を感じて逃げるのは当たり前だ。
「おまえ、本当に俺のこと、好きだったんだな」
「…今だって」
 亮介は新一の言葉に困った顔をしながら、ぼそりと呟いた。
「…今も、好きだ。…いっぱいいろんな奴、代わりにしたけど、やっぱり誰もおまえの代わりにならなかった」
「…浅見」
 新一は亮介の言葉に微笑した。
「…いいよ」
 そして、小さく頷いた。
「俺に触ってもいいぜ。そのえっと、いっぱいいろんなこと、していいし」
「…新一…」
 信じられないという顔をする亮介に新一は微笑した。
 もう、答えは十年前、あの石を取りにいこうと思ったときにすでに出ていた。
 池の中に足を踏み入れることに躊躇しないくらい、この男に惹かれていたのだ。
「おまえのこと、嫌いは嫌いだっただろう。今だって、おまえほど、俺のこと、振り回す奴もいないし。やっぱりそういう意味では嫌いだな。けどさ」
 新一は亮介の頬を両手で挟むと、その目を覗き込んだ。
「おまえの気持ち、嬉しいんだ。ずっと好きでいてくれた。…くじらの石、手に入れたんだから、俺もおまえを好きになるよ。もっと好きになるんだから、きっと友達の好きは超える」
 亮介の目は怖かった。
 確かにこの目でじっと見られることは恐怖する。
 すべてを曝け出させられそうな強さは怖いけれど、心を明け渡してしまえば怖くはない。
 何より、亮介自身が新一にすべてを明け渡してくれているから。
「りょおちゃん」
 子供の頃の呼び名で新一は亮介を呼ぶと、そっと唇を寄せた。
「…好きになったよ、りょおちゃん」
「新一…」
 震えたキスはきっと今まで亮介がしてきたキスの中で一番幼いキスだっただろう。
「唇、ふやけてる…」
 新一から離れると、亮介は幸せそうな顔をして新一の唇を指で押さえた。
「あ、あがるか?」
 その亮介に慌てて新一が言うと、亮介は首を振った。
「いい。それより、傷、触っていいか?」
「…あ、うん…」
 亮介が言うのに、新一が背を向けると、その背に指が滑った。
 まるで確かめるように指先が新一の傷の上を滑っていく。
「ここ、感触あるのか?」
 気遣うような言葉に嘘を言っても仕方がないと、新一は首を振った。
「…縫った後のとこは全然感触ない。仕方ないと思うけどな」
「そっか…」
 亮介のショックを受けた声にやっぱりと新一は立ち上がりかけた。
「やっぱりあがろう、なっ。…え、わっ」
 風呂のヘリに捕まって立ち上がりかけた新一を押さえつけるように、その腰を掴んで亮介が傷に舌を這わせたのだ。
「…ちょっ、こ、こらっ」
 新一が慌てているにもかかわらず、亮介はゆっくりと下の方へと傷の上に舌を這わせていく。
「…本当に感触、ない?」
「…そ、それは…」
 確かに傷に感触はないはずなのだ。けれど、じわじわと新一の体に快楽が沸いてくる。
「…う…」
「…跡、つけてもいいよな…」
「…あっ…」
 軽く噛まれた。ひくりと背をそらせると、亮介はくすりと笑ったようで、新一の背中を何度もついばんで跡を残していく。
「…あ、ぅ…」
 感覚がないと思っていた傷跡が膿むような快楽を産んでいく。肌があわ立つような感触に新一はあがる吐息を必死でかみ殺した。
「…新一…」
「…あ、あの、亮介…」
「なに?」
 ちゅっと音を立てて肩甲骨の辺りにキスを落とされて、新一は声を上げる。
「…あ、…ここで、するのか?」
「…だって、触っていいって言っただろ?」
「…え、…うわっ」
 いきなり尻を掴まれて、新一は慌てた。
「そ、そこもか?」
「ああ、もっと中、触りたい…」
「…ひやっ」
 変な声が漏れた。いきなり亮介が新一の入り口にキスをしたせいだ。
「あ、…ちょ…」
 なんでそんなとこまで。
 新一はどうしていいか分からなくなってくる。
 はっきりいえば、新一はまったく経験がない。さっきのキスがはじめてのキスだ。それなのに、こんなとこに。
「…そんなこと、しないといけないのか…?」
「ああ、でないともっと奥、触れない…」
「…う…あ…」
 ぬめった感触が中へと入ってくる。もしやと思わなくても間違いなく亮介の舌だ。ぬるぬると舌が唾液を中へと注ぎながらはいってくる。
「…や、…汚いってば…」
「そんなこと、ない…」
 亮介は新一の抵抗を聞かず、舌を中へと差し入れる。それから、入り口を撫でさすりながら、指を中へと入れてくる。
「…あ…やだ…」
 足ががくがくと震えてくる。
 もう立っているのも苦しい。不意に自分の欲望がすっかり立ち上がっているのが見えてしまい、そのことが一層新一を追い詰めていく。
「…お、俺…」
 初めて人肌に触れた。なのに、ここまで翻弄されている。
 亮介の経験も透けて見えて、たまらなく悲しくなってきた。
「…う…えっ…」
 思わず声が上がった。快楽を示すものではなく、その声は悲しくて漏れた嗚咽だった。
「…新一?」
 その新一の声に気づいて、亮介は立ち上がると、新一の顔を覗き込んだ。
「…泣いてるのか?」
「…俺…」
 亮介の顔が後悔で滲む。その顔に新一は必死ですがりつくように、亮介に抱きついた。
「お、俺、変だ…、こんなん、なって…」
 欲望はもう破裂しそうになっている。恥ずかしくて、助けてほしくて、新一が縋り付くのに、亮介は優しく微笑んだ。
「俺も変だって。全然、余裕ないし」
 亮介はそういうと、新一に自分のものを触らせた。
 どくどくと脈打ち、新一を欲している亮介の欲。その熱さに新一はじっとそれを凝視した。
「…すごい…」
「おまえに触ってたから…。俺はずっとおかしいよ、おまえが欲しいから」
「…おかしくても、平気か?」
「ああ。俺がおまえを好きだって証拠だし、おまえが勃ってるのも、気持ちいいってことだろ?なら、すごく嬉しい。もっと気持ちよくさせたい」
「…りょおちゃん…」
 新一は亮介の言葉に嬉しくなって笑った。
「…なら、して。もっと、もっと…」
「新一…」
「りょおちゃん」
 子供の頃の呼び名で新一は亮介にすがった。その新一を抱きしめると、亮介は激しく唇を重ねてくる。
「…う、んん…」
 ぴちゃっという唾液の混ざる音が浴室内に響く。その音が新一を追い込んで、もう亮介にすがることでしか立てなくなっていた。
「…新一…」
 その新一を亮介はゆっくりと浴槽内に抱いたままおろしていく。
 膝の上に向かい合う形で座らせると、亮介は新一の唇を蹂躙しながら、もう一度新一の中に指を入れた。
「あう…」
 思わずのけぞる。弓なりになる新一の腰を亮介は支えたまま、何度も指を出入りさせた。
「…や、お、お湯があ…」
 中に湯が入ってくる。ちゃぷちゃぷと湯が跳ねる音に新一はたまらなくなって、亮介の肩に顔を埋めた。
「…新一、気持ちいいだろ…?」
「あ、やあ…」
 触られてもいないのに、前はもう弾ける寸前だ。そのことも恥ずかしくて、けれど、その恥ずかしさが新一を追い込んで、快楽が体の中に沈みこんでいく。
「もっと、気持ちよくなろうな…」
「…あ、いやあっ」
 指が増やされた。増やされた指が縦横無尽に中で蠢くのに、新一は喘いだ。
「…そ、れ、やだ…」
 指が壁を激しくこする。自然と腰が動いて、そのはしたなさが恥ずかしくて新一はやめてほしいと亮介の腕を掴む。
「…だめだ、もっと感じてくれないと」
「…あ、いやあ」
 また指が増やされる。ぐりぐりと中でねじるように、動く指。
 感じすぎて涙が沸いて、新一はその涙を何度も手で拭った。
「りょおちゃ…も、やあ…」
 中途半端な快楽だと、やがて思い知る。中をこすられて、たまらなく感じているのに、亮介は新一が反応を返す場所はわざと避けて、そこを広げるだけに専念している。
 もう、だめだと、思った。
 体がもっとと欲している。
 たまらなくて、新一は首を振って、亮介にすがった。
「…なあ、…もぉ…」
「欲しい?」
 たまらず欲する言葉を言った新一に亮介が囁く。
「なあ、欲しい?新一…」
「ん、うんっ、…欲しいよぅ…」
 何かは分からない。けれど、きっと亮介は新一を解放するものをくれると信じて何度も頷いた。
「…分かった。あげるから、力抜いて」
「え…?」
 不意に体が持ち上げられる。亮介は片手で新一の腰を掴むと、今まで新一の中を蹂躙していた指を抜いた。
「…行くから…」
「…あ、…ヒッ」
 いきなり熱い塊がさっきまで指が入っていた場所に突き入れられた。
「…熱い…」
 痛みなのか、下肢が灼熱の棒を飲み込まされたように熱い。細かく震える新一をなだめるように、背を撫でながら、ゆっくりと亮介が注挿を始めた。
「…あ、や、これっ…」
「俺のだよ、俺のを新一に入れたんだ…」
「…いやあ…」
 棒の正体を亮介の口から告げられて、新一は首を振った。
「こ、怖い、りょおちゃ…っ、やぁ…」
 亮介が動くたびに快楽が生まれる。圧迫感も強烈だが、与えられる快楽も別に存在して、新一を苛む。
「…大丈夫」
 その新一を亮介はあの目で覗いた。
「…新一の中にいるのは俺だろ、だから、怖くない」
「…あ、や…」
 穏やかな言葉に新一は亮介を見た。
「…あ、りょおちゃん…」
 近眼の亮介はじっと人を見る。そして、新一を見るのはもっと強い目。
 幼等部の頃から変わりない、強い眼差しだ。
「そう、俺だから」
「あうっ」
 新一の体から緊張が抜けると、亮介は新一の腰を掴み、激しく突き上げた。
「もっと、気持ちよくなろう…っ」
「…あ、ああっ」
 さっき欲しいと思った場所に強烈な刺激が与えられる。新一は亮介の腰に足を巻きつけて、自分からねだるように腰を亮介にこすりつけた。
「あ、…ん…やぁ…」
「新一…っ」
 亮介の声も上ずったものになる。荒い息遣いが耳に届いて、新一は首を振った。
「あ、…も、イク…だめだ…」
「ああ、イケよ、俺も、…もうっ」
 新一が喘ぐと、亮介も答えるように突き上げた。
 亮介の先端が新一の欲しかった場所に最後の突き上げをくれた時、新一はすべてを手放した。
「…あ、…はあっ」
 湯が汚れると思ったが、止まらない。新一は放出する欲望に体を弛緩させながら、不意に下半身に入った力で亮介を締め付けた。
「…うっ」
「…りょおちゃん…」
 中で出された。
 奥に感じた熱さに新一は思わず後ろにのけぞってそのまま、湯に沈みかけた。
「新一っ」
 その新一に慌てて、亮介は手を伸ばして抱きしめた。
「…倒れるなら、こっちだ…」
「…うん」
 ぎゅっと抱きしめられて、新一は微笑んだ。
「りょおちゃん」
「なに?」
 亮介の優しい笑顔。その顔に新一は頷いた。
「やっぱり俺、おまえ、嫌いだ」
「え?」
 瞬間でショックを受けた顔に変わる亮介に新一は吹き出した。
「…だって、俺のこと、こんなに振り回すの、おまえだけだし。嫌いで」
 言って、それから、その頬にキスをして。
「好きだな」
「…新一」
 告げたとたん、ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられて、新一は声を上げて笑った。
 初恋はお互い様だったのかも知れないと、そう思いながら。











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2007.3.24

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