15





「…律…」

 首筋をなめ上げられて、気持ちよさよりも不快感で肌がざわめいた。

「…なんか、気持ち悪い…」

「慣れれば平気」

 伊織の不安に律は微笑んで答えると、宥めるように伊織の体をその繊細な指先で撫でながら、下へと降りていく。

 指の後を舌が追う。時折、ちくりと痛むのは肌を吸い上げられているせいだと思った。

「…ここ、何ともない?」

「…くすぐったい…」

 胸の小さな飾りを指と舌で愛撫された。ちろちろと律の赤い舌が胸の先をなめているのに、伊織は恥辱にかあと顔が赤くなるのを感じた。

 整った顔立ちの律が伊織の肌を愛しいといわんばかりに愛撫している。女性と違って、丸みのない、固いだけの体なのに、律はそれすらも愛しいという顔をしてくれた。

「…り、律…」

「どうした、いやか?」

「ち、違う」

 そうじゃなくてと、伊織は律の服を掴んだ。

「おまえも脱いで…」

「…ああ」

 伊織の服は律の手ではがれている。空調の効いた室内で、素肌をさらしても寒さは感じないが、自分だけ裸になっているということがとても気恥ずかしかった。

「じゃあ」

 恥ずかしさで真っ赤になっている伊織に律は綺麗に微笑んで、そっとその伊織の手を自分の服に触れさせた。

「伊織が脱がせて」

「え?」

「俺が伊織の服を脱がせたんだから、今度は伊織が俺の服、脱がせて」

「……」

 きっと熟れたトマトになっている。

 顔がこれ以上ないほど熱く火照ってしまっているのに、伊織はううと小さく唸った。

「じ、自分でしろよ」

「脱がせてよ。昔はよく脱がせあいっこしたりしたろ」

「…あの頃と今は違う…」

 伊織が俯くと、律はそっとその顔を覗き込んできた。

「…伊織の手で脱がせて。そしたら、また勇気が出るから」

「……」

 まだ不安なのだろうか。

 確かにそれは伊織もかわりない。今、体を重ねようとしていても、それでもあの寂しかった5年間はぬぐえない。

「分かった」

 伊織は微笑むと、そっと律の服に手をかけた。

 相変わらず仕立てのいい、高そうな服を着ていると、伊織は思いながら、外しづらいと思いつつボタンをひとつずつ外していく。

「…なんか、すげーどきどきするな」

「うん、俺もしてたし、してる」

「…そうか」

 少しだけ恥ずかしさよりも嬉しさが上回って、伊織は律の上半身を裸にした。

「…律」

「ん」

 裸の胸に手のひらをそおっとおけば、律は嬉しそうに笑って、ぐいと伊織をベッドに押しつけた。

「律っ」

「後はいい。俺がする」

「……」

 確かに下まではどうしたらいいのか分からなかった。

 思わずぼんやりと助かったなあと思っていると、律がくすくすと伊織の顔を覗き込んで笑い出した。

「…なんだよ…」

「…いや、ああ、伊織だなあって思って」

 律の言葉にむっとはしたけれど、律の笑顔がとても綺麗だったものだから、何とも言えず伊織は黙り込んだ。

「伊織って、猫みたいなんだよな。何かあると不意に固まってしまうっていうか、何か考えこむとぼんやりしてしまうっていうか」

「…悪い?」

「いや、好きだ」

「…ッ…」

 また動きの止まってしまった伊織に律はキスをひとつ落とすと、また行為を再開した。

 首筋を伝い降りる律の唇に少しずつ息が上がっていく。

「なあ、律…」

「何?」

「…気持ち悪い、だけじゃない、かも…」

 伊織の素直な言葉に律は目を細めると、そうと呟いて、行為を続けた。

 肌を滑る律の指と舌。下半身へとのびる手に伊織は大きく吐息をついた。

「伊織、気持ち悪くないか、俺の手」

「…ん、全然…っ」

 柔らかく握り込まれて、伊織は息を詰めた。

 律の手を不快に思ったことは今までただの一度もない。今だって、快楽を操作されているような怖さはあっても、その手を気持ち悪いとは思わなかった。

 さっき、肌を滑った伊織の感触を気持ち悪いと感じたのは、今までされたことのない行為だったから、先の見えなさが怖かったのだろう。

「…律…」

「…少し足、開いて…」

「…うん…」

 言われるまま足を開くと、律は身をかがめて伊織の下肢に顔を埋めた。

「…あ、やぁ…」

 ぺろりと太股の内側をなめられる。きゅっときつく吸い上げられて跡を残されたと思った。

「…伊織…」

 息が上がって仕方がない。伊織は震えながら、律へと視線を向けた。

「俺、伊織以外にもそれなりに付き合ったことある。けど、こんなに好きなのは伊織だけだから。…他のやつらにはしたことのないこと、するから見ていて」

「え、あ、うわっ」

 律の綺麗な顔が伊織の下肢にもう一度埋められた。内股を指が撫でて、それからゆっくりとその指が伊織のものを掴むと、律はその赤い舌で下から舐め上げた。

「あ、ああ、や、…っ…あ…」

 たまらない。

 律の唇の中に飲み込まれていく自分のものに、伊織は目を背けたいと思って、それでも背けることができなくて、思わず凝視した。

「…り、律…ッ」

 どうしたらいいのか分からない。

 快楽に飲まれそうになって怖くなってくる。

 引きずられていくのに、伊織は律に手を伸ばした。

「…大丈夫だから…」

「ん、…うん…」

 律は伊織の手に自分の指を絡ませて、宥めるように伊織の指を撫でた。

「…感じてたらいい…」

「…あ、やあ…」

 律の指は伊織から離れると、そっと伊織の後ろへと這わされていく。

「…あ、…あ…」

 何となく、だけれど、律を受け入れるということは、その小さな場所を使うしかないのだということは分かっていた。

 だが、律の指が明確にそこをまさぐり始めたのに、伊織はふるりと震えて、シーツの上に髪を散らばらせた。

「…伊織…」

 律は伊織の下肢から顔を上げると、伊織の右足を自分の肩に乗せて、その場所を上に向けさせた。

「…緊張したりしないで、俺に捕まっていて…」

「…律…ぅ…」

 怖さに身が竦みそうになるのを伊織は律の顔を見て、必死で耐えた。

 甘い微笑の中に、欲望が伺い見える。律の指が伊織を開こうとしているのに、伊織自身も律を受け入れようと震えながら体を開いた。

「…あ、…あ…」

「…中がひくひくしてきた。…伊織はどこもかしこも甘い…」

「何、言って…、あ、や…音が…ッ」

 ぐちゅっと卑猥な水音が響いた。指が中で増やされているのが分かったけれど、どれほどに開かれているのか分からない。

 伊織は律の動きを追うのはやめようと思った。追えば追うほどに快楽に翻弄されてどうしようもなくなってしまう。

「…伊織…」

「…律…」

 伊織の呼びかけに閉じていた目を開けると、目の前に律がいて、あがった吐息を伝えるかのように、伊織の耳を甘く噛んだ。

「…や…」

「…伊織、…伊織、俺、もう…」

「うん…」

 律の望みは分かっている。

 伊織は震える手を伸ばして、自分の中を蹂躙している律の手を掴んだ。

「…ここ、律にきてほしい…」

「…伊織…」

 ごくりと律が喉を鳴らす。その姿に伊織は怖さを押し殺して微笑んだ。

「…早く…」

「…分かった…」

 律は伊織の中から指を抜き取ると、下をすべて脱ぎ去って、伊織に覆い被さった。

「…律…」

「…好きだ、伊織」

「俺も…」

 律は伊織の腰を掴み、足を上げさせると、その姿勢のまま伊織の中に入り込んだ。

「…あ、…あーッ」

 焼けた棒を飲み込まされたような激痛が走って、伊織は律の背に爪を立てた。

「…痛い、…律、痛いよ…ぅ」

「…伊織…っ」

 律もひどく辛いらしく、額に汗を浮かべ、その顔は苦悶を浮かべている。

 その顔に伊織は痛みで震える指を伸ばした。

「…律…」

「…力、抜いて。…出ないと、痛いだけだ…」

「で、も…」

 どうしたら抜けるのか分からない。

 伊織がそれを訴えて首を振れば、律は浅く動きながら、伊織の首筋を舐めつつ、伊織の前を擦った。

「あ、…それ、…や…」

「…大丈夫、気持ちのいい方に意識を向けて…」

「…あ、…う、ん…」

 伊織はしゃくりあげながら、律のいう通り、意識を律の指に向けた。

 相変わらず律をくわえこまされた場所はひどく痛み、熱い。けれど、律の手が伊織の快楽を引き出してくれていた。

「…伊織…っ」

 そして、律は伊織の体がほどけた瞬間、ぐっと腰を入れて中につき入れた。

「…あ、うわ…」

「…全部、入った…」

 律はため息をつくように言って、嬉しそうに笑った。その顔がまるで子供の頃の、苦手だった旋律が弾けた時と同じ笑顔だったものだから、伊織はつられたように笑って、律を抱きしめた。

「…嬉しいか、律」

「…うん、嬉しいよ」

「俺も、嬉しい」

 体の中で律が脈打っている。痛みも違和感もやはりあって、本当は逃げ出したくなるくらいだったけれど、そのすべてが律の存在が自分の中にあるせいなのだと思うと、嬉しさに転化されていく。

「…動いて、いいぞ」

「…ありがとう」

 だから、じっと伊織が慣れるまで動かずに抱きしめてくれていた律に、そう囁いて腰を少しだけ揺らすと律は嬉しそうに笑うと、それでもゆっくりと動き始めた。

「…あ、…はっ…」

 ゆらゆらと自分の足が揺れているのが見える。

 下半身の感覚がだんだんなくなってくるのに、伊織は律の背中を必死で縋るように抱いた。

「…え、ああっ」

 その時だった。

 律の額に浮かんだ汗が自分の頬に落ちたのに、伊織はその水滴を拭おうと身をよじった瞬間、律のものが伊織の内壁をえぐり、その感触に伊織は一際大きな声を上げた。

「…伊織…」

 律はその声に合点がいったとばかりにその場所を激しくつき始めた。

「や、やだ、そこ、…ああっ」

 先ほどまでは違和感と痛みだけだったのに、それとは別の快楽が生まれてきた。もう律に触れられてもいないのに、前が力を増してくる。

「…り、律っ」

「…もっと、もっと感じて…」

「あ、や、中でおっきくな…ああっ」

 律は肩に担いでいた伊織の足をさらに高く掲げ、ぎしぎしと伊織の体を攻めた。

 内壁がえぐられる。圧迫感だけでなく、快楽から声が漏れる。

「ああっ、や、…も、イく、出る、…律…っ」

「…俺も、すごく、…イイ」

「…律ぅ」

 はあはあと獣じみた声を上げて、律が伊織の喉にかみつくように吸い付いた。

「…律、律…」

「伊織、もっと、もっとだ…」

「…律…ああっ」

 ぐりっと中を抉られた。

 瞬間、ちかっと何かが光って、伊織の前がはじけた。

 その時、中の律も締め付けてしまったようで、律は低く唸ったかと思うと、伊織の中で放った。

「…あ…熱い…」

 伊織が小さく喉を鳴らして唾液を嚥下すると、律はふっと小さく笑って、その顔にキスを降らせた。

「…律…」

「少し、力抜いて…」

「…うん…」

 伊織が呼吸を浅く繰り返すと、その動きに合わせて律が中から出て行った。

「…あ…」

 律が出ていくと同時に中からどろっとしたものが下肢を汚した。

「…風呂、入る…?」

「…後でいい、だから…」

 気持ち悪くないかと、気にして囁いた律に、伊織は静かに首を振って手を伸ばした。すると、律は伊織に答えるように抱きしめた。

「…大丈夫か?」

「うーん、ちょっとだるいし、痛いけどな」

「そうか」

 気を遣ってくれたのは分かっているけれど、初めての行為は伊織にやはり負担をかけさせた。

 仕方がないよと、伊織は笑って律の顔を覗き込んだ。

「何回かしてたら慣れるだろ」

「…何回かって…」

 さっきまでとんでもないことを伊織にしていたというのに、次を指した伊織の言葉に律は真っ赤になった。その顔に伊織はくすくすと笑って、律の頬に音を立ててキスをした。

「それよりもさ、聞きたいことがあるんだけど」

 そう、確認しなくてはならないことがある。











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2007.8.16

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